アナ録(GV-VCBOX) SD NTSC映像キャプチャ機材

 VHSテープのキャプチャ(デジタイズ)では、アナログ信号を入力してデジタル画像に変換する機材が必要になります。映像をキャプチャする機材には、高価なものから安価なものまで様々にありますが、今回ご紹介するアナ録(GV-VCBOX)はIO-DATAで販売していた比較的安価な製品です。アナ録はだいぶ古い製品で、現在は後継機となるGV-HDRECという機種が販売されているようです。
 今回は、アナ録とVHSなどのSD映像のキャプチャについて記載します。

アナ録の特徴

 アナ録は家庭用に設計された簡易なキャプチャ機能が搭載された機材ですが、ユニークなのは60p(60fpsのプログレッシブ映像)でキャプチャできることです。SD映像は30fpsのインターレース方式で記録されたものが多く、PC向けの30p映像データとしてキャプチャした際に櫛形ノイズが発生するなど、扱いの面倒な方式です。しかし、60pでキャプチャすることで、櫛形ノイズの発生を避けることができます。この特徴については、後で詳しく記載します。
 なお、フレームレートの表記について、ここでは煩雑になるので基本的に整数のフレームレート表記とします。29.97fpsといった小数点を伴ったフレームレートと30pといった整数のフレームレートについて詳しくは、「タイムコードとフレームレートの小数点」をご覧ください。

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IO-DATAの「アナ録(GV-VCBOX)」

入出力

 入力は、アナログ映像・音声の入力用にRCA端子とS端子を装備しています。RCA端子はいわゆる赤白黄色の3つの端子で、映像とステレオ音声を入力するものです。S端子は明るさの信号と色の信号を分けて送信することで、画質の劣化を抑えることができる映像用端子です。しかし、S端子は端子のピンがとても細いために、しばしば接触不良を起こすのが難点です。接触不良で全く映像が映らなければすぐに気づくのですが、明るさの信号だけが通電して色信号のみが接触不良を起こすと、色の抜けた白黒映像が伝送されることになり、注意が必要です。接触不良といったトラブルとS端子での僅かな画質向上とを比べると、特にVHS程度の情報量の信号伝送ではRCA端子を使った方が安心なように思います。
 本体には小型の液晶モニターが搭載されていますが、大きな画面でも映像を確認できるよう、HDMIの出力端子が装備されています。

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左から赤白の端子がアナログオーディオ入力、黄色の端子がアナログ映像入力、続いてアナログ映像入力用のS端子、HDMI出力端子、USB-A端子、AC入力

コピーガード信号

 アナ録は、VHSなどのビデオソフトに記録されていることが多いコピーガード信号に反応する仕様になっています。コピーガードが記録されたビデオソフトからの映像・音声を入力すると、アラートが表示されてキャプチャできません。コピーガードが入ったテープをキャプチャしたい場合は、別途コピーガード信号をキャンセルする機材が必要になります。ただし、現在ではアナログSD映像用のコピーガードキャンセラーは、入手困難だと思います。

記録

 記録は基本的にSDカードに行います。外付けのHDDドライブにも記録できるよう、USB端子も搭載されていますが、私はこの機能を使ったことがありません。また、SDカードの内容を別のSDカードにコピーする機能もあるようですが、この機能も使ったことがありません。

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記録メディアはSDカードで、映像記録用のスロットとデータ複製用のスロットがある

 音量レベルは3段階で調整が可能です。非常にザックリとした調整機能ですが、案外ツボを抑えた調整幅で、後処理での微調整の必要を感じることはそれほどありません。

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本体にはヘッドホン用の3.5mm出力端子もある

60pキャプチャ

 VHSビデオをはじめとするSD映像の多くは、30fpsのインターレース映像です。インターレース映像は、1フレームの走査線を2つのフィールドに分けて表示する方式です。つまり、1秒間に30枚の画像を表示するのではなく、1秒間に60枚の画像を表示しています。これに対して1フレームを2つのフィールドに分けず、1枚の画像として表示する方式をプログレッシブ映像と呼び、30fpsプログレッシブ映像の1秒間の画像枚数は30枚です。プログレッシブ映像であることを示す場合、フレームレートを表す値の後に「p」を付けて区別します。
 30fpsのインターレース映像を30fpsのプログレッシブ映像としてキャプチャすると、2枚のフィールドを1枚のフレームとして合成します。そのため、動きのある部分の輪郭に「櫛形ノイズ」と言われるギザギザとした形状が現れます。この櫛形ノイズは、「デ・インターレース」というフィルタ処理を施せば消すことができるのですが、デ・インターレース処理を行った場合は、1フレーム内に合成された2フィールド分の画像のうち、1フィールド分の画像を捨てることになります
 一方、30fpsインターレース映像を60fpsのプログレッシブ映像としてキャプチャした場合、1秒間に60フレームの画像としてキャプチャします。つまり、全てのフィールドを単独のフレームとしてデジタイズすることができます。1フィールドづつの画面の走査線が足りない部分は自動補完で埋め合わせるため、必ずしも完全な60p映像になる訳ではありません。しかし、櫛形ノイズのない映像を得ることができ、パソコンで動画を視聴したり静止画を書き出す場合には、綺麗な画像を得ることができます
 また、動きの再現という面でも、60フィールドのインターレース映像を30pの動画ファイルに変換してしまうよりも、60pの動画ファイルとして処理した方が、元の動きを正確に再現することができます。
 なお、インターレース映像や櫛形ノイズ、プログレッシブ映像について詳しくは、「インターレース方式について」をご覧ください

SD映像の解像度

 SDアナログ映像は、「走査線」と呼ばれる線で映像を描いています。この「線」に明暗や色彩の情報が加わり、画面が描画されます。走査線は横方向に表示され、複数の線で画面を描画しています。この操作線の本数が、画面の縦方向の細かさを決め、SDアナログ映像では、約480本の走査線で画面が表現されています。
 一方、横方向の画像の細かさは、1本の走査線がどの程度細かく色や明るさを変化させることができるかで決まります。画面の中に表現できる線の本数で解像度を表し、SDテレビでは約330本の縦線を描くことができます。この表現できる線の本数を、「水平解像度」と呼びます。水平解像度は記録メディアによって微妙に異なり、VHSで約240本、S-VHSやHi8では約400本となっています。
 走査線についても、「インターレース方式について」で記載しています。詳しくはそちらをご覧ください

解像度とピクセル数

 水平解像度の240本や330本といった本数と走査線数の480本という本数は異なる値を表してます。水平解像度の本数は、画面の中に何本の縦線を描くことができるかという尺度です。一方の走査線数は、何本の走査線で画面が埋め尽くされているかといった数字です。
 画面をピクセルという点で表現するデジタル画像の場合で考えると、1本の線を描くのに必要な最低限のピクセルの数は2つです。つまり、SDテレビの水平解像度である330本の線をデジタル画像で表現するには、横方向に660個のピクセルが必要になります。

図 v06_fig_01
1本の線を表現するには2組のピクセルが必要となる

 一方、480本の走査線をピクセルに置き換えるには、縦方向に480個のピクセルが必要になり、このピクセル数で表現できる横線の本数は240本になります。つまり、SDテレビ映像の解像度を表現するには、横方向で660個、縦方向で480個のピクセルが必要となります。しかし、実際のSD映像をデジタル化する場合の解像度は、640×480という値を使っています。これは、4:3というSD映像の画面の縦横比を正方形のピクセルで埋め尽くすためだと思います。

長方形ピクセル

 S-VHSやHi8では水平解像度が400本と、VHSやテレビの水平解像度よりも高い値になっています。こういった高い水平解像度を再現するのに、640×480というピクセル数では足りません。かと言って、縦方向の解像度を決定する走査線数はS-VHSやHi8でも変わらず480本なので、縦横両方のピクセル数を増やす必要はありません。そこで、ピクセルの形を縦長にすることで横方向のピクセル数を増やした720×480というフォーマットが使われています。ピクセルを縦長にすることで、画面の縦横比は変えずに横方向の解像度を向上させたものです。高画質フォーマットのSD映像をデジタル映像として記録する際に採用されている規格で、DVDディスクやDVというデジタルビデオテープもこのピクセル数です。

図 v06_fig_02
640×480では正方形ピクセルで構成されるが、720×480では画面の縦横比を保つためにピクセルは縦長の長方形ピクセルになる

 S-VHSやHi8のキャプチャでは、この720×480というフォーマットを使うことで、テープに記録された情報を失うことなくデジタイズすることができます。ただし、S-VHSやHi8の場合、撮影や編集に使用した機材のスペックによってはそこまで神経質にならずに、640×480でのキャプチャでも十分なように感じます。

FHDでのキャプチャ

 ビデオキャプチャ機器には1920×1080ピクセルのFHD記録が可能なものもあり、SD解像度の640×480では再現仕切れないS-VHSやHi8の水平解像度を保つことができる点で有利です。しかし、S-VHSやHi8であってもSD映像の縦方向の走査線数が480本であることに変わりなく、画面全体として劇的に解像感が向上するほどの効果はないように見えます。SD映像をハイビジョン解像度にキャプチャした時の見栄えは、キャプチャ機材に搭載された超解像技術などの解像度向上機能次第だと思います。
 FHDキャプチャ機器でのデジタイズは、こういった僅かな解像感の向上と同時に画面の縦横比がSD仕様の4:3ではなくFHD仕様の16:9になったり、優先フィールドがSD規格の偶数優先からFHD規格の奇数優先へと逆になってしまうといった変化があり、注意が必要です。
 キャプチャした映像をDVDビデオなどのSDフォーマットに記録する場合は、画面の比率や優先フィールドを正しく修正しないと、縦横比が狂ってしまったり優先フィールドの反転して動きの不自然なDVDを作成してしまう可能性があります。もっとも、多くの場合はアプリに用意されたプリセット設定を使うことで、問題なくFHDからSDへの変換ができるようです。

まとめ〜アナ録と後継機

 SD映像を60pでキャプチャできるアナ録は、インターレース映像をキャプチャするのに理想的な機材と言えます。キャプチャした動画ファイルをDVDビデオなどテレビで視聴するメディアに記録する場合は、30fpsのインターレス映像に変換すれば元の2フィールドで1フレームを構成する映像に戻すことができます
 解像度の点で640×480だけでなく720×480もサポートしていると理想的ですが、720×480で採用されている長方形ピクセルは、変換を間違えると画面の縦横比が狂ってしまうといった難点もあり扱いには注意が必要です。
 現在は、アナ録の後継機となるGV-HDRECという機種が販売されているようです。GV-HDRECを使ったことがないのではっきりとは言えませんが、メーカーホームページに記載された仕様を見る限りではアナ録の進化版といった製品のようです。こちらの機種では720×480の縦長ピクセル方式が採用されている他、FHD60fpsまでの記録が可能なようです。
 現行品であるGV-HDRECのAmazonの商品リンクはこちらです。

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