なめらかに動いて見えるフレーム数
前回の「インターレース方式について」で、NTSCテレビでは1フレームを2つのフィールドに分けることで、30fpsのフレームレートにもかかわらず1秒間に60枚のフィールド画像で動きを表現していると記載しました。なぜこういった複雑な表示方法をとったのか。恐らくそれは動きをなめらかに表現するためと、1枚の画面を描画する速度の問題といった2つの理由が考えられます。しかし、そもそも映像がなめらかに動いて見えるには、1秒間に何枚程度の画像が必要なのでしょうか。
INDEX
映画のフレームレート
映画やビデオで1秒間のフレームの枚数を「フレームレート」という言葉で表し、単位は「fps」を使います。「フレームレート」については「タイムコードとフレームレートの小数点」をご覧ください。
映画が発明された初期の頃は、およそ16fpsでの撮影・映写が主流だったようです。「およそ」というのは雑な言い方のように感じますが、映画が発明された当時は機材の回転軸に取り付けたハンドルを手で回すことで撮影や映写を行っていたので、現在のように正確な値ではありませんでした。
その後、映画フィルムに音声も記録されるようになって、24fpsとなります。十分な音質を確保するために、1秒間に使用するフィルムの長さを16フレームから24フレームに長くしたとも言われますが、諸説あるようです。その後、映画は24fpsのまま今日に至ります。
家庭用の映画フィルムフォーマットとして普及した8mmフィルムは、18fpsを基本としました。こちらもサウンド機能が加わったタイミングで24fpsも併用されるようになりました。
映画のフレームレートを見る限り、なめらかな動きを再現するには16fpsや18fpsといった値で十分なようです。もっとも、少ない値のフレームレートが好まれた理由は、最低限のフィルム消費量で十分になめらかな動きを再現するという経済的な理由とともに、当時のフィルム感度は低く、高いフレームレートでの撮影に伴う速いシャッタースピードでは光量が不足したという理由もあったのだと思います。
アニメのフレームレート
手書きのアニメーションの多くは、24fpsをベースに絵を描いています。日本のテレビアニメの場合は1枚の絵を3フレームづつに使用することで、1秒間の絵の枚数を8枚とすることを基本としています。これは、ある程度なめらかな動きを表現しつつ、1秒あたりの作画枚数を節約してコストを抑えるために導き出された数字のようです。
ただし、全ての場面で3フレームづつ同じ絵を使用するのではなく、速い動きでは1枚の絵を2フレームや1フレームに使用するなど、動きの速度によって微妙な調整を行っています。また、劇場用映画の場合は、1枚の絵を2フレームづつに使用するのがスタンダードなようです。これは、より動きをなめらかに表現するといった目的と共に、映画のような大きなスクリーンでは画面上での動きの移動量が大きくなるために、作画枚数を増やす必要があったとも考えられます。
テレビアニメの1秒あたり8枚という作画枚数や、劇場用アニメの12枚という数字を考えると、なめらかに動いて見える1秒あたりの画像の枚数は10枚程度が下限と考えて良さそうです。
速い動きの場合
アニメーションで速い動きを描く場合、1秒間に24枚の作画をする場合もあると記載しました。手書きのアニメーションでなくとも、モーションを伴ったタイトル作成などでアニメーション機能を使用する機会もあります。この時、素早く画面にスライドインするタイトルアニメーションを作成しようとすると、30fpsのフレームレートであっても1、2フレームで完結するアニメーションになることがあります。
物体が移動していることを表現するのに、1フレームだけでは「出現」した表現になってしまうため、最低限2フレームが必要です。つまり、物体が画面を横切るアニメーションを表現する時、2フレームで表現できる速さが最も速い動きであるといえます。時間にすると、30fpsの場合は1/15秒、0.06秒で画面を横切る動きが表現できる最も速い動きとなります。もっとも、画面を横切る動きをたったの2枚で表現しているのですから、「なめらか」とは言い難いといえます。速い動きをなめらかに表現するにはもう少し高いフレームレートであっても良いかもしれません。
ただし、これは人間が肉眼で認識できる「速い動き」とも関わってくるので、一概にフレームレートを高くする必要があるとも言い切れません。また、適当な量のモーションブラーを適用することで、見た目のなめらかさを確保することも可能です。
映写時のフリッカー対策
動きを表現するのに必要な画像の枚数とは別に、画面を表示する際の明滅回数も見た目の自然さに影響します。
映画のフィルムには連続写真のように撮影された画像が並んでいます。1枚の画像をスクリーンに映写しては次の画像に入れ替えるといった動作を繰り返すことで、動く映像を映写しています。次の画像までフィルムを移動させている間は映写ランプの光を遮ることで、フィルムが移動する動きは映写せず静止した画像のみを映写しています。1秒間に24枚の画像を映写するとき、1枚の画像を1回づつ映写する、つまり1秒間に24回画像を映写するとフリッカーという画面の明滅が激しく、見づらい映像になってしまいます。そこで、1枚の画像を複数回映写する仕組みが取り入れられています。
16mmフィルムや35mmフィルムの24fpsでは、1フレームを2回映写してはフィルムを次の画像に移動するといった動作を繰り返します。
v04_fig_01は35mmフィルムを映写するシャッター機構の模式図です。円に2つの切り欠きがあるグレーの部品が映写ランプの光を遮るシャッターです。回転することで、映写ランプからの光を遮ったり照射したりする働きをします。フィルムは、映写ランプからの光が遮られている間に次の画像に送られます。映写される画像が入れ替わる動作は、シャッター部品が1回転する間に1画像分が行われます。つまり、この機構では1枚の画像を2回づつ映写するので、24fpsでは1秒間あたり48回映像が映写されることになります。

35mmフィルム映写部分の模式図
1秒間のフレーム数の少ない8mmフィルムの場合、1フレームづつの映写回数は3回づつに増えます。v04_fig_02は18fpsで映写される8mmフィルムの場合の模式図です。
35mmフィルムの場合と同様に、グレーのシャッター部品が1回転する間に画像が入れ替わります。切り欠き部分が3箇所あるので、1枚の画像は3回映写されます。18fpsで1枚の画像を3回づつ映写するので、1秒間あたり54回画像が映写されることになります。
なぜわざわざフィルムを照射する回数を増やしているのか、それは画面が明滅して感じるフリッカー現象を低減させるためです。恐らく、1秒間に18回や24回の映写では明滅が激しく感じられ、心地よく映画を見ることができなかったためにこのような仕組みが取り入れられたのでしょう。

8mmフィルム映写部分の模式図
まとめ
映画やテレビ、パソコン画面上に表示される動画は、複数枚の画像が入れ替わることで動きを表現しています。1秒間に何枚の画像を使えばなめらかな動きを再現できるかは、再現する動きの速さによって異なりそうです。テレビアニメの1秒あたりの作画枚数を参考にすると、それほど速くない動きであれば1秒間に8枚程度の画像があれば、なめらかに動いて見えるようです。ただし、速い動きや視聴する画面が大きい場合は、8枚よりも多くの画像が必要になるようです。そういった意味では1秒間に必要な画面の枚数、つまりフレームレートの上限というのは決め難い数字のようです。
一方、動きを再現するのに必要な画像の枚数とは別に、画像の置き換えに伴う画面の明滅の回数によって見やすさが左右されるようです。パソコンモニタでいうところの「リフレッシュレート」といわれる画面を再描画する数字にあたります。これは、最低限の値として、1秒あたり50回程度の明滅が適当と考えて良さそうです。つまり、1秒間に8枚の画像で動きを表現したとしても、その動画は1秒間に50回程度の再描画が必要と考えられます。